個人投資家として株式投資の入口に立つ人へ向けられた本。
結論を先に言うと「個別株を買うより、アクティブファンドを買うより、インデックスファンドを買った方がパフォーマンスが良い」。ただし、そこには膨大な注釈が付いていて、それをまとめあげたのがこの本そのものと言っていい。
各章は株式の価値判断をするための二大流派、ファンダメンタル価値学派(公開情報から割安株を探す)と砂上の楼閣学派(市場参加者の多数派がどう動くかを予想する)の解説に始まり、市場が効率的とは言えない実証としての過去のバブルと恐慌の歴史(チューリップバブル、南海泡沫事件、世界恐慌など)を経て、テクニカル分析とファンダメンタル分析の解説、その他の近年登場したテクニックなどの解説などが続く。株式投資を始めるに当たっての全体地図として頭に置いておくと、今後の勉強がしやすくなると思われる。
そこから導かれる結論は「インデックスファンドこそ最強の投資法」という内容だ。最大で過去百数十年のデータをあげて、長期的に、どのようなタイミングで始めても、過去に存在したアクティブファンドはインデックス指標(S&P500等)のパフォーマンスを超え続けることはできなかった。超えたとしてもごく短期間か、良いタイミングで始めて良いタイミングで引き上げた人に限られるか、最終的にはボロボロの結果に終わるかになってしまった。去年最高のパフォーマンスを上げたファンドだからといって今年も同じ結果になるとは限らない(過去の実績は未来のパフォーマンスを担保しない)し、そうしたごく一部の優秀ファンドを事前に知ることはできない。結果的に、確実な成果を上げ続けるには全株式にあまねく広く投資するインデックスファンドを選択するしかない。
ナシーム・ニコラス・タレブの言葉を借りるなら「優秀なファンドマネジャーなんていない。あれはまぐれだ」というところだろう。十分に効率的になっている市場で、大多数を出し抜いて勝ち続けることは相当に難しく、初めから諦めて、少なくとも損はしないインデックスファンドにした方がマシだということだ。
とは言うものの、ウォール街や兜町では(リスクを取って)一大財産を築き上げる人がいる。何より著者はアナリストとして実務をし、経済学者としても活動してきた一方で、一個人投資家として成功を収めてきたと明かしている。それはこの本に書いたことの実践だとは明言していない(何よりこの本が初めて世に出た1973年、インデックスファンドは存在しなかった)。そうした成功者の存在を横目に見つつも、インデックスファンドに任せるか、それともアクティブファンドやら自分の才覚での個別株投資に舵を切るのか、それは読者の考え方(リスク選好度など)にかかってくるだろう。
この本を“使う”ために最も重要な部分は第13章「投資家のライフサイクルに応じた投資戦略」の解説だ。著者自身も「この章だけでも、高い料金を払ってファイナンシャル・アドバイザーを雇うよりも価値があると自負している ((第一〇版へのまえがき p4))」と言っている。インデックスファンドが長期的な資産形成に有効であることが分かった上で、個人投資家はそれぞれのライフステージに合わせて資産のバランスを変更する必要がある。それを年齢ごと、収入の状況ごとに例をあげて解説している。20代半ばであれば多少の損が出ても収入でカバーできるので株式投資を多めに、引退世代なら安全な債券を多めに、キャッシュも多めに、といった具合だ。株式投資をするならインデックスファンドを中心にすることを推奨しているが、自分で個別株に投資するパターンも触れられている。また、定期的なリバランスがもたらす投資効果についても解説されている。
一つ注意しておきたいのは、この本はすべて米国内の投資家を念頭にしたもので、税制の違いや日本の市場が米国株式市場ほどに効率的ではないことに注意する必要がある。一応、訳者あとがきでその点は触れられているが、読むときにははじめに確認した方が良いと思われる。
[書評]ウォール街のランダム・ウォーカー
2016年1月30日