大酒飲みとの晩餐

2007年1月21日

切込隊長BLOG屈指の名エントリ、アメリカンデブとの晩餐をテンプレ化してみた。事実でない部分が多数含まれているが気にしない。

大酒飲みとの晩餐

 先日、某所から大酒飲みが来たので晩飯を一緒に喰った。
 前に、私は彼の飲みの予定をドタキャンして激怒させたことがある(照)。
 なもんで、東京の某ホテルに泊まっているから飯を喰おう、と誘われたら地元でもある私が飯代を出すのは仕方のないことだと思っていた。どうせダイニングといってもせいぜい1万かそこらであろう、こういうときぐらい仁義として払ってやってもいいだろう、いいに違いない、と自分で自分を説得しながら、待ち合わせ場所である新橋駅に向かった。
 ひとつ、私が計算違いをしていたのは、大酒飲みは一人ではなかったのである。
 私が激怒させたきよっさん(仮称)という酒飲みは、いわゆるこってり系であり、腹回りから腰にかけて分厚い脂肪が溜まっているタイプである。しかし、彼の周囲には彼と同泊しているというたかっさん(仮称)という酒飲みと、たかっさんの後輩である小松と和田(いずれも仮称)という酒飲みと四人で新橋駅前のSL広場で飲み屋街の品定めをしていた。というか全員ほろ酔いだった。
 親が酒飲みなら子供も酒飲みというのは遺伝子や食習慣で分からなくもないが、よりによってその同泊しているパートナーまで私のよく知ってる大酒飲みを選ばなくても良いのではないか。
 かくして、過去に痛い目にあった大酒飲みに会いに逝ったら、そこには4・大酒飲みズという複数形に進化していたのが非常に厄介であり、その後のお金の流出について強い懸念を抱き始めた。
 安いワインダイニングに移って奥の個室を取り全員落ち着いたとき、その懸念は恐怖に変わりつつあった。初めに出された白ワインを、注がれるや否や10秒というオーダーで飲み干しやがるのである。「白ワインってのはな、食事前の談笑を楽しむためにちっとずつ飲むものなんだよ」と抗議したが「そんなことをするのは暇な瀬戸内人ぐらいのものだ」と口々に返され、「これだから高知県人は」と大げさに言ったところ「そういうことを言うと吉野川の水を止めるぞ」と笑って言われた。まあ、同様に兵庫県人と口論になると「お前、つまらん注文つけるとヘリ出動しないぞ(※)」と言われることがあるので、香川県の立場はかなり弱いものなのかも知れない。
※ 香川県の島々で頻発する山火事には兵庫県警が消火用ヘリを出す。他にも重大事件の立件など、離島に限っては香川県警と同等の存在感がある
 口論には歴史を踏まえたお国柄というのが結構あって、岡山県人と仲良くする時は「道州制は中四国州で行こうぜ」とか「備讃瀬戸も埋め立てて陸続きにしよう」とか「四国新幹線はマリンライナーを特急にしたみたいなもんだ」とか都合の良いことを言い、岡山県人と喧嘩する時は「お前は俺のビッグブラザー(宗主国)ではない」とか「小豆島に逃げられた癖に(江戸時代まで小豆島は岡山側の領土だった)」とか都合の悪いことを言う。
 どこの文化圏の国の連中と話をする時にも、分かる範囲でその国の歴史の都合の良し悪しを利用して仲良くしようとしたり口喧嘩したりするものなのである。なお、一部には洒落が全く通用しないので工夫したほうが良い。かなり昔の話になるが、徳島県人に「徳島ラーメンは讃岐うどんブームの二番煎じ」と言ったら、殴り合いの喧嘩に発展したことがあったので注意されたい。
 そんな感じで仲良く大酒飲みズと飯を喰い終わって、流されるままに2軒目に行って終電が終わる前後になって、彼らが口々に「もう一軒」と言い出した。私は満腹だ。2軒目で5人で普通に8人前コース喰って飲んで、さらにコース外のものも頼みまくって満足しない日本人はそういない。しかし、彼らは物足りないという。酔い足りないという。ノットイナフだという。死ね。
 おまけに、1軒目でも2軒目でも赤ワインを何本も空けていた。ま、ホストである私が全部頼んでいるので(私がお金を出すのだから当然だ)、掲載されている中でももっとも安価なワインを上から順に頼んでいるだけなのだが、それでもたっぷり三万円分は飲んでいる。ふざけんなと思ったが、まあここは接待である。保険屋が取り付け騒ぎで殺到した客をさばくのにジュースをたらふく飲ませて帰すようなものだ。解約されて大損するよりは、手ごろな飲み食いをさせて腹いっぱいになれば満足するというわけだ。
 それでも彼らの飲みっぷりは常軌を逸している。何とかデザートでやり過ごそうと思ったが、彼らの知ってる人が輸入酒屋のようなエスニック居酒屋のような店を開店しているからそこへ連れて行け坊(私のこと)という。最初、何のことだか分からなかった。話をよく聞いてみると、伝統的な居酒屋でないほうの、エスニックが良いという。ことここに及んで、彼らはワイン、あるいはウィスキー、もしくは輸入ビールを飲みたいという趣旨のことだと理解した瞬間、抱いていた恐怖は諦観に変わった。まだ飲むのか。
 仕方がないので、タクシーを二台呼んでもらい、二台に分乗した。タクシーが一台なら、私が助手席に乗って普通に行き先を伝えて充分だろうが、何せ搭載する人物が人物である。ろれつの回らない口調で運転手に指示を出し、タクシーに横転でもされたら目も当てられない。引火したらしばらく燃えてそうだし。
 果たして無事に到着したが、彼らの期待していたエスニック酒場は既にラストオーダーの時刻を回っていた。そうすると、普通に居酒屋に入るしかない。幸い秋葉原・御徒町辺りは土地勘があるので手ごろな価格の居酒屋に入った。が、やっぱりというか、大酒飲みズは普通に四人卓に座って黙ってるような酔い方をしていない。仕方なく、一番奥の迷惑にならなさそうな席に誘導してもらった。この店の売りは焼酎だそうだが何か好きな焼酎はあるかと聞くと、「焼酎は好きだが、焼酎の何が好きかと聞かれると返答に困る」という返事だった。私の日本語力が足りなかったのかも知れない。通常は霧島、さつま白波、くろうま、刻の封印など様々な銘柄をピンポイントで頼むのだが、何か好きな銘柄はあるだろうか?と問い直したら、「どれも焼酎であることには変わりないだろう。だったら頼むべきものはただひとつ、焼酎だ」という。
 諦めてピュアブルーをボトルで3本ほど頼んだ。
 焼酎と私のビールが到着すると、コップが渇く暇もなく次々と飲んでいく。しかも、酒飲みズはロックを入れずにほぼストレートで飲んでゆく。しかも、注文の追加が遅いと私の分のジョッキまでバンバン飲む。次々と焼酎とビールを共に口の中に流し込んでは、まるで今夜が世界の終わりであるかのようにどんどん注文していくのである。
 ここで更なる問題が勃発する。いま飲んでいる酒を提供している居酒屋の近くには、ここにいる全員がよく知っている人が通っている大学があるのである。当然、怖れていたように「そういえば三好(仮称)の研究室はこの近くだったな。今すぐコールしろ!!」といった指令が飛ぶのである。とはいえ、もう終電時間を楽勝で回っている。もう帰宅しているに違いない、帰宅していてくれ、と思ったら普通に研究室にいた。これだから研究生は嫌いだ。何と言うか、酒飲みは仲間を呼ぶ。まるでwizardryでいえば瀕死のパーティーに遭遇したグレーターデーモンが仲間を呼ぶようなものだ。しかし、助かったのは三好は明日中にまとめるべき発表資料があるので行けないとのことだったので、酒飲み増援は避けられた。
 ちと小便で中座してしまった間に彼らは勝手に頼んだらしく、卓上にありとあらゆる銘柄のボトルが並んでいて泣きそうになった。周囲の客が分からないのをいいことに土佐鶴のCMソングとか歌っているのである。もはや品性という単語がもっとも似つかわしくない集団である。どうやら頼み方も「何か焼酎を持って来い」だったらしく、安い方から順番で登場していた。
 いきなり終了のゴングが鳴ったのは「ラストオーダーです」というおずおずとした声が、たどたどしい日本語を駆使する店員の口から発せられた時だった。正直助かったと思った。大酒飲みズは腹をパンパン叩いて「あー飲んだ飲んだ」「東京の居酒屋も少しはうまいな」としか言わない。会計をして、金額を見て顔がひきつりそうになったが、ここは堪忍である。タクシー乗り場まで送る途中、彼らはコンビニに寄り、何をするのかと思ったら、人数分のウコンの力を買った。あんだけ喰って飲んで騒いで、ウコンの力なのかよ! いまさら100mlかよ! 何時間も前から肝臓はフル回転なんだよ!
 御徒町の道の真ん中で横に並んで歩く一行の手にはウコンの力。タクシーでの別れ際に「坊。次はうち(山奥の実家)でいいもん喰わしてやるよ。最高の奴をな」と強く肩を叩かれた。いつもは長いと感じてやまなかった始発待ちが、ちょっとだけ、楽な気分になった瞬間だった。

関連

アメリカンデブとの晩餐 – 切込隊長BLOG

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です