最近になって、流行のMusical Batonとかいうものが自分のところにも回ってきた。音楽についての決まっている質問にブログのエントリ上で答え、さらに次に答える人を指名する。指名された人は同じようなエントリを書いてまた次の人を指名する。連鎖が連鎖してたくさんの人がその質問に答えることになるというしくみだ。
このバトン、しくみがネズミ講に似ているとか、やり方がチェーンメールに似ているとかで賛否両論があるらしい。私の巡回しているサイトでもその辺について言及があったので、バトンのチェーンの一つになった身として意見をいくつか整理しておきたい。
Musical Batonはネズミ講と同じという意見について
Musical Batonはネズミ講と同じで破綻が目に見えているという意見だが、私の周りでは既に破綻している。皆にバトンが行き渡ってしまい、バトンだけ受け取ってアンカーを走る人を多く見かけた。だからといって何か不利益があるわけじゃない。ノルマがあったりネズミ講のように回収できるはずだった投資金額の回収が難しくなるとかそんなことはない。回ったなら回った、終わったら終わった。誰も困らない。ネズミ講と同じ構造かもしれないが目くじらを立てるほどではないだろう。
仕掛けた人は意図していたのか知らないが、大きなムーブメントにするには爆発的に行き渡るようにすることが重要だ。そこで1つのバトンが5つのバトンになる、いわゆるネズミ講の仕組みが必要になる。Musical Batonが1人に回すしくみだったらとっくに拡大することなく収束していただろうし、2人に回してもまだ収束する危険は大きい。それを5人に回せば3人が無視しても拡大していく。これはネズミ講でなければ成功しなかっただろう。これは賢いやり方だと思う。
Musical Batonはチェーンメールと同じという意見について
私はわりとチェーンメールは好きだった。面白いネタが来ると洒落の分かる友人に回したりしていた。でも本気でチェーンメールを回す奴は馬鹿だと思う。チェーンメールが回ってくるのは楽しいし面白いが、本気で内容を信じたり、本気で何人にも回そうと躍起になるのは馬鹿馬鹿しい。チェーンメールが迷惑に変わるのは暇じゃない人に渡ってしまったときだ。無駄なメール処理が増えるからその人は困る。暇な高校生が「まーたこんなの回ってきたよー」と笑ってる分にはいっこうにかまわないし、誰も困らない。
さらに当時言われていた、無駄なデータがインターネットを圧迫して…とかいう論拠は説得力に欠ける。メールが自動で増えるのはともかく、人間の処理するメールには限界があるから圧迫するほどにはならない。人間のメール処理限界数を超えてチェーンメールが回ってきたら、どんなに頭の足りない人でも回すのをやめるだろう。
同じ理屈で、チェーンメールを敵視する必要はない。面倒ならやらなきゃいい。不幸の手紙のように危機感をあおったり悪質なマルチ商法のように義務を発生させたりするものでなければ無視する人は無視するし、回したい人は回す。誰も迷惑しない。
Musical Batonは陰謀なのではないか説について
このバトンの仕掛け人が音楽業界のマーケットアナリストではないかという意見があった。そうだとすると多少は気持ち悪いかもしれない。しかしこの方法ではアンケートのデータとしてはあまりにも頼りない。きちんとしたアナリストが根拠に足るデータを出そうとすればこんな方法はとらないはずだ。集計も大変だし回答のレベル(データとして使えるかどうか)も低い。
バトンの発祥がSNSだとすれば、個人がある程度特定されるので「あなたの回答に興味を持ったので聞き取り調査に参加してください」などと調査を進めることができるが、いまバトンが騒がれているのはSNSだけじゃなくて外のブログにも行き渡ったからだろう。匿名の混沌の中でのデータを調査に使うことに価値はない。もし仕掛けたアナリストがいたとすれば今頃頭を抱えているだろう。あるいは彼はアナリストではなく、ネズミ講をシミュレーションしたいネットワーク理論の研究者だろう。
Musical Batonはリソースの無駄遣いという意見について
webに公開される個人の日記、特にブログは定期的に更新されている。ネタがあるから書く人よりも、ネタがないけどとりあえず書く人の方が多いように思う。そんな中、バトンは格好のネタになる。「今日はネタないよ…」とうだうだ書かれるよりバトンの答えを書いてもらった方がよっぽど面白い。と思ったんだがどうだろう。とにかく、ネタがあってもなくてもエントリ書いてんだから、バトンが回れば回るほど負荷が増えてリソースの無駄遣いになるというのは少し言い過ぎかなと思う。
で結局、Musical Batonはどこが問題なのか
問題なのはずばり、「パスしちゃ駄目じゃん!」などとバトンを回すことを強制したり、プレッシャーを与えることだ。
いわばバトンは「お前このテーマについてエントリ書いてくれ」と言ってるようなものだから「絶対に書けよ! 書かないとダメだからな」と言われたところで気分が悪いだけ。余計書く気が起きない。それに「絶対に回せよ!」と言ったらそれは破綻を許さないネズミ講になってしまう。ますます破綻できなくなる。
だから私は、次にバトンを渡す人を指名するときに「迷惑であれば無視してください」「回答しなくても構いません」などと一言そえるのがマナーだと思っている。それでも指名したこと自体のプレッシャーはなくならないだろうが、ないよりはよっぽどマシだ。自分が書きたいなら「書く自由」があるし、書きたくないなら「書かない自由」があるし「回さない自由」がある。「回していく」という行為は関わる全員の同意を得てはじめて成り立つことを忘れていけない。
もちろん回さなかった人も「回せなくてゴメンナサイ」などと言う必要はないと思う。「○○さんはどう思う?」「ノーコメントです。答えられなくてごめんなさい」という会話のノリとはわけが違う。ブログは会話じゃない。
さて私のMusic Batonは
私に回ってきたMusical Baton、巡回先のうち回ってない人をリストアップしてダメ元で5人を指名したところ、回答してくれたのが2人、バトンの言及にとどめたのが1人、無回答が2人だった。快く答えてもらえたのは予想外だった。(まだ書いてないってことは、過去に回ってきながら無視したからなのかなとか思っていたので)
今回まわした人は全員面識のある人だったが、自分が一方的にその人のサイトを見ていても同時にその人が自分のサイトを見てないとバトンは渡らないんだなと回してから気がついた。その人が気づいてないならメールやメッセで通知すればいい話なんだが、そうすると変なプレッシャーをかけてしまうからそれはそのままがいいんだと思う。むしろ反応してくれた人はちゃんと見ていたんだと確認できたので儲けもんだ。
Musical Batonの思わぬ効用
そのむかしホームページブームだったころ、ウェブ日記にはほとんど必ずリンクページというものがあった。それで管理人の交友関係やテーマが似ている別のサイトを容易に探すことができた。しかし今、ブログにはそれが少ない。ブログブームを迎えて私が戸惑っているのはリンクページ(あるいはリスト)がなくなってきたのと、管理人のメールアドレスがあまり公開されてないことの2点だ。そのうちリンクについてバトンは少しだけ解決してくれた。
バトンの回ってきた元と回した先がそのまま交友関係リストとして使えるのだ。私はWordPress(ブログツールの一種:日本語公式サイト)について調べていてずっとWordPressサイトを探していたのだが、あるWordPressサイトのMusical Batonを見ると、回した先が全部WordPressサイトだった。まさに天の恵みだった。また、ある日を境に忽然と消えてしまった知り合いのサイトがあったが、その人がまた新しいサイトを作っていたことを知ったのは別の友人のMusical Batonだった。バトンは思わぬ交友リンクとして機能するのだ。
もちろん、音楽についての質問なのだからその回答について話が盛り上がることも楽しい。私がMusical Batonを書いたらあまりつかないコメントが付いた。ものすごく嬉しかった。Musical Batonが回っていたことで得られたものはこのようにいくつもある。ネズミ講なんかに過剰反応しないで、おもしろそうだなと思ったら軽い気持ちでやるのがいい。ネット上のブームなんだから頭に血を上らせても何も得られやしないし。
おまけ
魔が差してバトンのルーツをどこまで辿れるのかやってみた。
YAGITCHE (6/25)
Star Tours (6/20)
bearvalley (6/20)
備忘録 (6/17)
POLLYの日記 (6/15)
日曜日の朝から憂鬱な僕は人生の七分の一を損している (6/15)
忘れる (6/15)
最後の病気は希望 (6/14)
このレコードを私に下さい (6/14)
b(log)oosted (6/15)
interrupted train (6/14)
rickdom (6/13)
2xUP (6/13)
↓[1]と[2]に分岐
[1]
COULD (6/12)
↓[3]へ
[2]
greenplastic.net (6/11)
detlog.org (6/10)
↓[3]へ
[3]
fliedlice.com (6/8)
Boy Comes To Town (5/17) – 英語
こうしてルーツは英語圏であることを確認。あー疲れた。
申し訳ございません。もう、仰るとおりで、返す言葉もございません。
自分の回した先にはちゃっかり「無視していいですよ」と言ってあるので、一つしか回らなかったのです。
「駄目じゃん!」も軽いノリだったのですが、ネット上のコミュニケーションは難しいですね。文字通りにしか受け取れないのだから、気をつけないといけない、と、反省しています。
いえ、そんなに強く非難してるわけじゃないんですよ。事例の一つとして活用させてもらっただけですので。
このエントリも文章通りだときつい感じですけど、書き方次第では伝わらないノリってありますよね。私も気をつけないと。
あ、私もキツく非難されたとは思っていないです。
すごく冷静に分析しておられますし。
ただ、キムタケさんの一連のエントリーだけ、読むと、強制的に読めるなぁー、と、やっと気づいたので御礼に伺ったしだいです。
ありがとうございました。