楽天の携帯事業参入について状況整理と予測

2017年12月14日

楽天が携帯電話サービス事業に参入することが発表されました。これについて現状の整理と、今後どうなるかを公開資料から読み取ってみたいと思います。数字のない部分は全部推測です。

参入スケジュールについて

楽天のプレスリリースによればサービス開始予定は2019年中です。今回確定しているのは総務省が1.7GHz帯/3.4GHz帯の割り当てを受け付ける際、楽天が新会社を設立して申請を行うところまでです。実際に割り当てられるかは総務省による決定によります。しかし名乗りを上げるということはそれなりに見込みがあるのでしょう。1.7GHz帯/3.4GHz帯の割り当ては2017年度末までを目処としているので、それに向けて審査期間などを逆算するなら事業計画などを含めて今後1〜2ヶ月のうちに申請を行う必要があります(総務省の受付期間は未開始・未定)。事業計画の大枠は楽天のプレスリリースの通りになるでしょうが、具体的な数字についてはまだ分かりません。特に1.7GHz帯はまだ立ち退きが終了していないため、終了促進措置を含めて数字を合わせる必要があり、既存事業者と総務省とである程度呼吸を合わせないといけません。これは邪推ですが、もしかしたら既に何らかの示し合わせがあっての申請かもしれません。

1.7GHz帯/3.4GHz帯の割り当ての背景について

現在日本の携帯電話事業は大手3社とそのグループによる寡占状態となっています。総務省はこれを良くない状態と考えています。過去に周波数割り当てを行った時はイー・モバイル(現ソフトバンク)やアイピーモバイル(参入断念)等の新規参入がありました。総務省は大手3社以外の新規参入事業者に対して制度上様々な便宜を図ってきましたが、現在はすべての新規参入事業者が大手3社のいずれかに吸収されるという状態になっています。特にプラチナバンドと言われる700/900MHz帯の割り当てに際しては、イー・モバイルへの割り当て決定後にソフトバンクグループに買収されたために、割り当てが結果的に公正にならなかったという批判を受ける事態となりました。総務省はこれを教訓として、4G用周波数では周波数を一体運用する企業グループからの複数申請を認めないなどの対策を導入しています。これで他業種から新規参入しようとする企業が周波数割り当てを受ける環境が整ったと言えます。

最大残高6,000億円の資金調達について

楽天のプレスリリースでは、資金調達残高は2019年のサービス開始時で約2,000億円、2025年で最大6,000億円とあります。単純な比較だとイー・モバイルの当初の資金調達額は3,600億円なので、2,000億円はこの6割程度です。イー・アクセスの決算資料によると2009年3月末(サービス開始から2年時点)の有利子負債残高が1,038.9億円、2010年9月の有利子負債残高が2,766.8億円(このあたりがピーク?)とありますので、残高2,000億円はこの間くらいになります。当時のイー・モバイルの親会社イー・アクセスと比べて楽天本体の事業規模は相当大きいですので、スタート時は大規模な資金調達で集中的な設備投資を行うものと推測できます。比較する対象が違う話ですが、NTTドコモ(7,500万人)の年間設備投資額はコンスタントに6,000億円、イー・モバイルのピーク時(2006年度)の年間設備投資額が1,000億円程度です。時期未定ながら契約者1500万人という数字を挙げつつ最大負債残高6,000億円はずいぶん控えめのように思えますが、このあたりはひとまずぶち上げただけかもしれません。

楽天にとって通信事業の荷は重そう

楽天の事業の柱となっているEコマース事業やカード事業と比べて、通信事業はかなり重く大きい事業になります。最初の数年は莫大な赤字を流し、他事業で支えることになるでしょう。このようなドメスティックで泥臭い事業は、本来なら楽天としては銀行業のように買収によってショートカットしたかったことでしょう。楽天は過去にも楽天スーパーWiFi(イー・モバイルとの協業)や楽天モバイル(MVNO)、Viber(IP電話)、フュージョン・コミュニケーションズ(長距離通信)など間接的に通信事業に参入しています。しかし事業売却が容易なそれら事業と比べて、MNO事業は公益性が高く機動性に欠ける巨大ビジネスとなります。グループ経済圏を拡大して売上高の嵩増しができる・月次の売上が安定するというメリットはありますが、反面で通信事業者として各種規制の対象になり、もし事業失敗しても周波数割り当ての経緯上ほかの通信事業者による救済も期待できません(イー・モバイルの二の舞になり総務省のメンツが許さないでしょう)。ずいぶんと大きなリスクを取りに行ったなと思います。
完全に憶測ですが、外国系企業が参入しようとしたのを総務省が察知して、対抗のために渋る楽天を説得して参入させたとかだったら面白いなーなんて仲間内で話しています。

ユーザにとってのメリットは

個人的には、解約周りなどのオペレーションで特に評判の悪い楽天モバイルという印象があるので、行儀の悪い通信事業者がまた一社増えたなーという感じです。ユーザメリットは特にないと思います。初めこそ安くシンプルな価格体系だったイー・モバイルやUQコミュニケーションズも現在では大手3社と大差ありませんので、同じような結末を辿るでしょう。

サービス展開について

イー・モバイルやUQコミュニケーションズのサービス展開シナリオが参考になります。まずは費用対効果の高い東名阪の人口密集地と東海道新幹線沿線を埋め、続いて地方都市とJR幹線沿いに広げていく流れです。大手キャリアほどの体力はないでしょうし周波数帯も高いものを使用しているので、山間部の整備は永遠にされないと思います(総務省は許さないでしょうが)。あるいは過去のツーカーグループのように東名阪だけを整備して後は他社のローミングを使うという方法も考えられます。今後プラチナバンドと呼ばれる700MHz帯/900MHz帯あたりがまた再編されることがあれば山間部カバーも現実的になりますが、再編したばかりですし空く予定もないので期待薄でしょう。

ショップ展開について

大手3社は全国に代理店網を持っているため、対抗上おそらく同様に代理店を整備するかもしれませんが、津々浦々に整備すればするほど費用対効果が下がり間接コストは上がります。量販店レベルにしか店舗を持たないMVNOの考え方で少数に絞った方が安上がりです。ただ、Eコマース事業とのシナジーを狙って小売窓口と一体整備する(イオンモバイルの逆)とか、自前配送会社の足がかりとして一体整備するとかだと勝算があるかもしれません。

楽天モバイルはどうなる

MNO事業があればMVNO事業を持つ意味が薄れますので、今までのように積極的に販売することはなくなるでしょう。ソフトバンクがPHSユーザを巻き取ったように、各種キャンペーンで契約者の移行を促すことになると思います。あるいは既存約款の設定によっては、サービスの卸元をドコモから新MNO会社に強制移行するかもしれません。この場合は全契約者のSIMの差し替えが必要になるのでそれなりの反発が予想されます。eSIMの時代になればこうした問題は解決すると思いますがまだ時間がかかるでしょう。

音声サービスについて

総務省の資料をちゃんと読めてないのですが、周波数割り当ての条件に音声サービス提供が入ってないように見えます。基地局の危機調達上はLTEオンリーだろうがVoLTE有りだろうが大して金額は変わらないとは思いますが、全国の緊急機関(110,119等)との接続や固定電話との相互接続、優先電話、通話料の持分調整などの面倒くさいもろもろが発生すると間接コストが増えます。もしかするとノウハウのあるフュージョン・コミュニケーションズに一本化する算段があるのかもしれませんし、データ通信オンリーにしてViber等のIP電話をセットにする(つまり緊急機関には繋がらない)ことにするという離れ業を使うのかもしれません。なお音声通話以前に、3Gの設備を持たずLTE網だけで参入できる時点でランニングコストはかなり圧縮できるものと推測します。

機種調達について

4G対応機種が今後どのくらいの速度で普及するか分かりませんが、ラインナップは1.7GHz/3.4GHzに対応した機種がグローバルでどのくらい出るかに依存すると思います。この辺りはあまり詳しくありません。

おわりに

以上、部外者がテキトーに分析と予想をしてみました。ツッコミなどありましたら追記していこうと思います。

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