会社でときどき研修というものを受けることがある。スキルアップにつながるような研修なら良いが、なかにはセキュリティ教育とかコンプライアンス研修とか名前を聞いただけであくびが出てきそうなものがある。先週それに出席したときちょっとした驚きがあったのでメモしておく。
やる気がないのは私だけでなく他の出席者も同じのようで、会場の席は後ろから埋まっていく。研修がスタートする頃には最前列と2列目が綺麗に空いたような形になっていた。そして研修の司会者は簡単に挨拶をした後「少しウォーミングアップをしましょう」と言った。
研修の際にウォーミングアップを設ける人はそれほど珍しいものではない。こういった研修の中で唯一意味があった(と私が感じる)メンタルヘルスケアの研修の際、担当した精神科医は「そろそろ眠くなってきたでしょう」と体を動かす時間を設けていた。そして最後に「こうして体を動かして気分転換することで気持ちが楽になります。予防の手段としてとても重要です」と解説していた。
今回の研修ではウォーミングアップと言いつつ30秒間設けて周りの人と挨拶をさせ、「いまの30秒で5人以上と挨拶した人はいますか?」などと手を挙げさせ、ひととおりすんだところで、一言。
「前の席が若干空いております。皆さんせっかく立って頂いておりますので、そのまま2列前の席にお座りになって下さい」
こうして席は前から順に綺麗に埋まることになった。見事な誘導に感心した。
◇
話は変わる。
自分が過去に講演とか発表とかやった時、たいてい誰か一人の出席者に目線を合わせながら話すことが多かった。それは座席の前の方か中央あたりにいる人で、私の話にうんうんと頷いてくれる人だったりする。こうした「代表的聴者」を設定すると安心して話に集中することができる。
ただ、たまにその人が、気がゆるんだとかで間抜けな顔をしたりすると大変。こみ上げる笑いをこらえながら話を続けなければいけなくなる。咳払いなんかをしてごまかしながら、ツボが通り過ぎるのを待つしかない。これは辛い。
しかしこれは逆手に取れる。
出席者の立場になったとき、変な顔をして発表者の笑いを誘うといういたずらができる。学生の時、親しい友人が発表者だったときに一度試したことがあった。彼は私がやったのと同じように咳払いを何度もしながらゆるんだ顔を必死に押さえていた。ただ、このいたずらは迷惑度が高い上、変な顔をしている自分が良識を疑われるという諸刃の剣なので素人にはおすすめできない。せいぜい洒落の通じる知り合いが発表者で、しかも発表がどうしようもなくつまらなくて暇つぶしするしかない時にやるのが良い。そんな場面はほとんど無いと思うが。
この手のいたずらは他の場面にも応用できる。
電車の中など公共の場所で友人と笑い話をしていると、ごくたまに全然関係ない人が笑いをこらえているのを発見することがある。そんな際にはたたみかけるように笑い話を繰り出す。声のトーンも少し上げる。そして、じわじわ盛り上げて最後に簡潔なオチで落っことすタイプの話をするのが良い。クライマックスの瞬間、ターゲットはこらえきれず激しく咳き込む。なんとなく勝った気がする(何に!?)。
ぜひお試しあれ。
「そのまま2列前の席にお座りになって下さい」
2008年11月3日