うどんの国に電子マネー来たる

2006年10月10日

IruCa
IruCaが電子マネーの実証実験 – Slashdot Japan
ことでん(高松琴平電気鉄道)プレスリリース – pdf
ざっとした解説をすると、SuicaとかICOCAみたいなICカードを「IruCa」なる名前で導入している香川の私鉄が、これまたSuicaみたいにカード一枚で駅ナカや駅周辺で買い物ができるようにするよ、てな話です。
これまで香川で電子マネーといえばEdyの独断場。JRはそもそも自動改札すら持っていない有様なので「ICカード? 食えるんかそれ?」な状態。コンビニ界隈の場合、四国最大勢力のローソンはマルチ対応予定、第二勢力のサンクスはEdyのみ対応。 独自マネー「nanaco」導入予定のセブンイレブンなどはそもそも香川にないし、四国にすらない。
そんな電子化過疎地域の四国・高松になんやらおもっしょげなもん(注:讃岐弁)がやって来る。
これ以上独自規格を増やしてどうすんの? という話はしません。今も経営再建中で財政上の不安が消えない会社が金融業みたいなこと始めて大丈夫? という話もしません。問題は、高松のおじちゃんおばちゃんに受け入れられるか否か。この一点。
東北のスーパーでEdy利用率5割という成功事例があるので、やり方次第なのかもってところもありますが、直感的にはあー無理だろうなーといった感じではあります。
ただ、もしもですよ。万が一ですよ。電子マネーが高松市内の商店街に受け入れられた場合ですよ、こんな感じになります。

Before

1.うどん屋に入る
2.カウンターの向こうのおっちゃんに「かけ小」と注文する
3.かけうどん(小)がどんぶりに入って出てくる
4.うどんをどんぶりからてぼ(ラーメン屋で言うところの麺から水を切るための片手ざる)に移して湯がき、どんぶりに戻す
5.カウンター端のレジ隣にある巨大タッパーからスプーンでネギすくってうどんに乗せる
6.レジのおばちゃんにあらかじめ用意していた170円をポケットから出して渡す
7.レジの向こうにある蛇口のところへ行き、うどんだしをダボダボとどんぶりにかける
8.空いている席に座り、割り箸をとり、ものすごい勢いで喰らう
この間約2分。

After

1.うどん屋に入る
2.立派な店構えに、しかもレジ前に行列ができているのを見て「しまった」と思う
3.とりあえず店のおっちゃんに「かけ小」と注文する
4.なかなか出てこない。仕方ないのでカウンター前で立ったまましばらく待つ
5.なぜか後から入ってきた「ざる大」注文の客の方が先に出てくる
6.ようやくうどんが出てくるが、レジ前に客がつかえているので列に並んだまま待つ
7.どうやらレジのバイトの手際が悪いことが判明するが、特に文句を言うわけでもなく待つ
8.前の客がICカードで払おうとしているが、なかなか財布から見つからないとかでそのまま待つ
9.後ろの客から舌打ちが聞こえるが、そのまま待つ
10.用意していたICカードで会計を済ませる(その間3秒)
11.会計を済ませたはいいが、どこでだしを注いでいいのか分からず、無駄に広い店内をうろうろする
12.どんぶりをよく見ると、申し訳程度にだしが注がれていることが判明する
13.と同時に、待ち時間の間にだしもうどんも冷めていることが判明する
14.空いている席に着き、テーブルの器の渇いたネギをスプーンですくいながら、二度と来るまいと心に誓う
この間10分。

まとめ

経験則から、うどん屋は資本が大きくなればなるほど妙なことになるんですよね。味はどうあれ安いうどん屋ってのは、うどん作る以外の無駄なことを一切してないというのが極意のような気がします。てなわけで街のうどん屋は、IT化とはどこまで行っても無縁だし、ましてや電子マネーとか追加投資のかかるものは「何それ? うどんに乗せて食えるんか?」みたいなもんでしょう。
話をちょいとずらしますが、
うどん屋に限らず一般にある「まちのお店屋さん」というものはどこもそんな感じで、今日挙げたような「商店街密着の電子マネー」とか「バーチャルモールのシステム導入で街全体が活性化」みたいなITソリューションが世間一般に浸透するとは思えないんですよね。
まあ、見えない形でなら某グループとか某グループとかが元国営会社のプライドと資本を大量投下してインフラ整備に勤しんでるので、知らず知らずにITの恩恵に与っているかもしれません。でも全国何万人の店主さんの考えを変えるような「目に見えるIT」ってのはまだまだ先の時代の話ではないかと思うのです。
IT業界の端くれ者としては、「ITで世界が変わる!」と豪語する人がちらほらいるような世界との間でギャップを感じますね。お店屋さんは趣味でホームページは作ってもネットショップを本気で始めたりはしないし、本気で始めた少数の人たちもR天市場のシステム費用が適正かどうかも判断できませんからね。
ITに向けられる色眼鏡(プラス方向にもマイナス方向にも極端なフィルタ)が外れるまでは、田舎の店舗経営とか日常生活の細かな場面に至るまであまねくITが普及するのは無理でしょう。長い年月をかけてそれを乗り越えた「活版印刷」と同じ道のりを、まだITは辿り始めたばかりだと思います。
まあ、「うどん市場」のレジのおばちゃんが「IruCaも使えるでー」とか言ってる姿を一度見てみたいですね。電子マネー、期待してます(棒読み)。

もめ事回避のおまじない

このエントリは、讃岐うどん店が電子マネーを導入することについて反対するものではありません。
このエントリは、ことでんが実施する電子マネー実証実験を否定するものではありません。