別にテレビを見なくなる必要はないと思う

2006年5月27日

やっぱり認知度の低いアナログ停波 – スラッシュドット ジャパン
テレビはつまんない。テレビは時間の無駄。テレビはネットで代替可能。そんなことを聞く機会が増えたし、アナログ停波(新規格のテレビでないと5年後には地上波放送が見られなくなってしまう問題)後には地上波は見ない! なんていう過激な意見まで聞くようになった。
でもそこまでテレビ(地上波放送局)を敵視する必要はないんじゃないかと思う。

テレビに対して具体的に挙げられる問題点については、次のいくつかの項目にまとめられる。
・娯楽番組の品質が低い
・報道番組の信用性が低い
・視聴者への訴求効果が薄れている(趣味の多様化に対応していない)
・ビジネスモデルが崩れかかっている(CMの効果が薄れている)
逆に言えば、これらの問題点を除けば有用だと言うことだ。何より「放っておくだけで次々と画面に情報が表示される」というテレビ最大の特徴は魅力的だ。特に朝の急いでいるときにはかなり役に立つ。情報のほとんどはゴミのようなものだが「天気予報です」「交通情報です」などの言葉で画面に振り向けば、そこには求める情報が表示されている。ネットだと情報を取りに行く手間がかかる。ラジオではビジュアルがないので情報の把握に時間がかかる。パッケージされた朝の情報番組だからこそなせる技だと思う。
マスメディアはこの朝の情報番組のように「たくさんの人が同様に求める均質化された情報」をパッケージ化して伝えることに向いている。たとえばテレビだと朝の情報番組や、夕方のニュース番組や、報道特番などがそうだ。この点ではネットなど足元にも及ばない。問題なのは娯楽など個人の趣味が露骨に出る分野だ。情報インフレで見る目が厳しくなった視聴者はこうした娯楽番組をバッサリ切り捨てることを覚えてしまったのだ。
そうして、少し前なら趣味ではない番組だろうがダラダラ見ていた人も、情報インフレの時代では「時間の無駄」と番組を切り捨てる時代になった。テレビ側からしてみれば「全員が見られる番組」を作っていればよかったものが、それが消えてしまったために慌てて「できるだけ多くの人が見られる番組」を作らざるを得なくなったのだ。そのために溢れてしまった少数派の視聴者がネットに流れ「テレビなんかつまんねぇ」と言いだして、そうこうするうちに情報インフレが世の中の隅々に行き渡ってきて「つまんねぇ」と言う人がどんどんどんどん増えてしまった。こうして「テレビはつまんない」ということがイミダスに載るぐらいに既成事実化してしまった。そんな流れじゃないかと私は思う。
娯楽番組で支持を得られなかっただけのテレビは今度は過小評価されているんじゃないだろうか。マスメディアお得意のパッケージ番組はまだまだ強いし、番組単位で見れば魅力あるものは山ほどある。そりゃそうだ。人間の欲求に何十年と寄り添ってきたのだ。娯楽のノウハウでは百年の先輩である映画産業にもとっくに追いついているし、出版産業とも肩を並べようとしている。どっかの新興IT企業が目を付けたように、そうしたノウハウの価値は本当に計り知れないと思う。ただ、やり方がまずい。
大量の視聴者を抱えてそこに広告を配信する権利を売る、というテレビのビジネスモデルは賢いと思うが、視聴者の減少がきかない今は最大の不安要因となっている。影響力が少なくなれば少なくなるほど稼ぎは減る一方だ。新聞も同様のビジネスモデルで、同じように部数減に悩んでいると聞く。新聞業界はいろいろと複雑に絡み合っているのでごにょごにょしたりごにょごにょしたりして何とか誤魔化しているが、テレビの方はリサーチ会社が数字を発表してしまうので誤魔化しがきかない。
やり方がまずい、と私が思うのは、大量に視聴者がいた時代のビジネスモデルをそのまま続けようとしていることだ。それはCMスキップを禁じるなどという目先しか見ていない世迷い言に集約されている。影響力が少なくなって稼ぎも減りつつあるというのに、同じやり方で同じ予算をかけて同じものを作り続けるのはどう考えても頭が悪い。低視聴率が当たり前になったのなら、それだけ低コストな番組作りにシフトしたり、思い切って放送時間を短縮してもいいのではないだろうか。たとえば娯楽番組はネットなどで代替可能だが、低コストな分だけネットには敵わない。そうした場所でテレビそのものの体力を無駄に消費するようなことがあってはならない。上で挙げたテレビならではのパッケージ番組の強さはこれからも続いて欲しいし、テレビというメディアがなくなることを本当に望んでいる人は少ないはずだ。
テレビはその存在感がちょっと薄くなっただけで、テレビのもつ特徴も娯楽ノウハウもまだまだ健在だ。無駄に金をかけることはやめて資産とノウハウをもう少し有効利用すれば立ち位置を変えても存続だけはするに違いない。かつて華麗な転身を遂げたラジオ業界のように。

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