見積もり能力

2004年12月22日

S社の代表で最近復学したばかりのN氏は就職活動中だ。彼の就職活動は楽しみながらやるというか、興味を持ってやるとかいうことをポリシーにしている。
そのN氏から最近おもしろい話を聞いた。

グループディスカッションのとき、よく観察していると男女の考え方の差というものがよく分かるらしい。よく聞く話だが女性は洞察力やコミュニケーション能力に優れ、男性は論理的思考に優れる、と言われている。彼は具体的に「とっさの見積もり能力」というものを挙げ、女性は論理的な推測においてうまく対応できなかったことを説明してくれた。性差論にするつもりはないが、この「見積もり能力」、実は結構重要な能力なのではないかと思った。
彼は例として「日本におけるコンビニエンスストアの市場規模を推測せよ」という問題を出した。
すぐに思いつくのは「店舗数×1店舗あたりの売り上げ」である。セブンイレブンの店舗数は10000店、ローソンは7000店。1社平均5000店として全国展開している主要チェーン数は5。あとは誤差として考えると日本のコンビニは25000店。そして1店舗あたりの売り上げは…見当がつかない。
彼はヒントをくれた。「もっと違う視点がある」
少し考えて「国民総数×一人あたりのコンビニ消費額」を思いついた。国民総数は1億2000万。あとは一人がコンビニで買い物をする平均額を推測すればよい。店舗の売り上げよりもよっぽど楽に想像できるはずだ。
隣にいたB君は「毎日1個のコンビニ弁当を買ったら…」と導いた。しかしこれでは一ヶ月1万5000円も使っていることになってしまう。一方、毎日おにぎり1個では3000円だ。よく考えてみるとコンビニは食品から雑誌、衣料まであらゆる価格帯の商品がある。高いものになるとチケットやギフトまで扱っている。そのあたりをプラスして、一ヶ月5000円と私は推測した。もう少し考えて直感と自分の金銭感覚で4000円と修正し、4000円×1億2000万人×12ヶ月=5兆7600億円と推測した。
答えは年間6兆9624億円(2003年度:社団法人日本フランチャイズチェーン協会発表)。国民一人あたり月間4600円を使っている計算だ。ちなみに日本におけるコンビニ店舗数は38787(2004年11月)、そのうちセブンイレブンが10596(2004年11月:セブンイレブンジャパン発表)、ローソンが7909(2004年8月、ローソン発表)らしい。
普段は想像することもなく雲をつかむような見積もりだが、論理的に推測していけば近い答えは出る。意外と気づかれないかも知れないが、この推測(というより分析)能力は侮りがたいものではないかと思った。
「超・発想法」の中で野口悠紀雄氏は、物理学者エンリコ・フェルミが学生に「シカゴにはピアノ調律師が何人いるか」と聞いた話を紹介している。フェルミは最初の原爆実験に立ち会いその爆発力をかなり正確に言い当てたらしいが、彼は一歩一歩ステップを踏んでいけばアプローチできることの大切さを教えている。
しかし見積もりをするにはある程度の基礎知識がなければ成り立たない。
野口氏は別の著書「超・勉強法」で「経済関連の統計データは、知っていると便利だ」と述べている。「経済関連の統計データは」というのは彼が経済学者だからかもしれないが、ジャンル問わずおおざっぱな統計データは知っていると便利だと思う。特にビジネスの場面では放っておいても経済データは必要になるのではないだろうか。彼がそんな話を持ち出したのは暗記法について「機械的に覚えるのではなく、理解して覚える」という具体例を出すためであり、経済データは「数字間の関係を体系的に把握しておけば」すぐに覚えられると言うのである。
例えば、日本のGDPを500兆円程度とするならば、国の一般会計租税収入はGDPの1割強として50兆円程度と見当がつく。そのうち半分近くを所得税で賄っているので所得税収入は25兆円程度。というふうに彼は推測している。(1994年当時の数字では、それぞれ479兆円、53兆円、21兆円)
データに関して彼は「詳しく知っている必要はない。(中略)要は『2兆円くらいかな』と桁を間違えて馬鹿にされたりすることがなければよいのである」と言っている。議論や思考の段階では細かい数字である必要ではなく、大まかなことが分かればよいのだ。詳しいデータをいちいち引っ張り出してきたりしなくても脳内ですぐに作り出せるということは、長い目で見てかなり役に立つのではないだろうか。そのためにも「見積もり能力」というものを鍛える必要があると考える。
「見積もり能力」とは、
・基礎的なデータの知識
・データとデータとの間の関連性の知識
・漠然と見当を付ける能力・シミュレーション力
・直感
などから構成されるだろうと今考えた。
この中で、さしあたって必要なのは基礎的な知識だろう。特に勉強するわけでもないが、何気なく聞いている数字を覚えようとする努力ぐらいはしてみようと思う。
トリビアの種のお題を聞いてすぐに結果が分かるぐらいになりたい。