今日の結論を先に言うと、
「ホリエモンは嫌いだが、彼の考え方は好き」
「ホリエモンの考え方は、素人にはお勧めできない」
人を好きになるのに理由は必要なくても、人を嫌いになるときは理由が必要だと思う性善説派のYAGITCHEです。
そんな私にも明確な理由がないのにどうしても好きになれないって人はいるわけで、さらに好きではないにもかかわらず気になって気になってしょうがないって人がいたりして、私にとってそれはホリエモンことライブドアの堀江貴文社長だったりするわけです。
最近はニュースで「ホリエ」と聞くだけで冒険家の堀江謙一だろうが俳優の堀江慶だろうが耳が立ってしまうほどの重症に。それを聞いた某友人が「あーわかるわかる」って言って…ましたが私の言うホリエは魔女っ子な方でもぐるぐる回る方でもないから!
<お金で買えないものはない、という発言の真意>
彼の経営手法や生き方についてはいろいろ言われているようですが、最も世間で物議を醸しているのは「お金で買えないものはない」という彼の言葉でしょう。
堀江氏の哲学では、すべてのものはお金に置き換えられます。あらゆるモノ、ヒト、その他いろいろなものはお金で換算でき、それゆえにお金で買えるものだとされます。人間関係も金で買えると言っていますし、明言されていませんが健康や寿命なども金で買えることになるのでしょう。この哲学は、彼が幼少時代に自分に掛けられる予定の保険金額を見て自分がお金に置き換えられることを知り、ひどく反発した反動としての割り切りだと語っています。
この考えは潔くて好きです。シンプルで、かつ、曇りがない。
耳に心地よいことを言ってばかりの人が氾濫しているなかで、彼の毒を含むこの発言は逆に好感を持てます。ある程度の社会的地位を持っている人で、彼ほどに自信を持ってこの言葉をはっきり言える人を私は見たことがありません。彼ほどの社会的地位と発言力、そしてなにがしかの後ろめたさを持っていれば下手なことを言えないはずです。しかしそんなことも平気で言ってしまう。冷たい言い方を容赦なく言ってしまう。
彼は社会貢献や社会の発展よりもむしろ、金儲けの方を考えています。会社を経営する彼の役割とは「金を儲けて株主に還元すること」のみですから、彼はそれを全うしています。少なくとも今のところは。彼の「金さえあればよい」という考え方は彼の役割にぴったり当てはまっていますし、それで何も問題ありません。彼は成功を続けていますから彼の人間性や哲学の細かいところは関係なく株主はついてくるしビジネスライクな関係もついてくるのです。以上から彼の発言は「成功しているからこそ言える好き勝手な放言」と言えます。
ただビジネスの世界ではその考えが通用しても、個人対個人の関係においては必ずしもそれではうまくいかないこともあるわけで、彼の考えに嫌悪感を抱く人や人間性を疑う人も出てきます。「女は金で買える」と言ってるような人に、真実の愛を見出したい女性は近づきたいとも思わないでしょう。彼の考えはシンプルで多くの人が抱いている本音であると同時に、個人対個人の関係ではタブーな内容も含んでいるために嫌悪感を与えやすい諸刃の剣でもあるのです。つまり、かの発言をしている彼は他人に媚びることを拒否したと言えます。物議を醸すことを承知で自分の思うところをはっきりと自信を持って言い切っているのです。そのあまりにもシンプルで素朴な考えは損得勘定が無視され、ものの言いようや矛盾の入り込む隙間もありません。ある意味で非常にフェアだと言えます。
<その考え方でなぜここまで成功できたか>
彼はその成功の秘訣について「シンプルに考えること」だと著書で語っています。彼の金儲けに関する哲学はそのシンプルさゆえに矛盾が生じないのでしょう。彼は自分の行動に後ろめたさも感じられないし、自身の発言で物議を醸しても悪びれる様子もありません。球界参入時に18禁コンテンツを扱っていたことも、めちゃくちゃなポータルサイト運営をやっていることも、彼に言わせれば「儲けのためにはたいした問題じゃない」のです。彼の彼自身の考えに対する自信は相当のものです。これは尊敬すべきところだと思います。
しかし彼が心の底から「金ですべてが解決できる」と信じ切っているかどうかは別問題です。本当にそう思っていて、かつ、合理的な判断をする人ならば彼はここまで成功していないはずです。目の前の金を稼ぐことのみを考えてここまで成功してきたとはとても思えません。「金ですべてが解決できる」とは思っていてもそれでうまくいかない部分もあるし、金儲けの概念を取り入れることでうまくいかなくなる部分があることは否めません。彼は彼自身の考え方を持ちながらそれを盲信することなく、それが適用できない部分もきちんと分かっているのではないでしょうか。
つまり、彼の「金ですべてが解決できる」という考え方をもってして、彼の人間性を疑うのはナンセンスです。今日の朝日新聞を見てみると、彼の「金で買えないものはない」発言について藤巻健史・藤巻幸夫両氏の意見があったのでおもしろいと思いました。健史氏は「本当の金持ちはお金を持っていることを感じさせない」ということを挙げ、幸夫氏は「金に対する執着だけでは尊敬されない」という意見でまとめています。もちろんこれだけの短い文章で両氏の意見とすることにはできませんが、この記事は堀江氏との間の考え方の違いをよく表していると思います。
堀江氏は著書の中で、日本では清貧であることが美徳とされ、その考えに毒されているために「成金」な生活を送れば周囲から妬まれるのだ、と指摘しています。そして、そういった社会構造は間違っているから自分が率先して成金になり、豪華な生活を皆に見せて妬みではなく憧れを持ってもらいたい、と言っています。彼が豪華な生活を送っているのは清貧だとされるお金持ちを意識してのことであって、何の考えもなしにやっていることではないということです。もっとも、実際にこのプロセス通りに「自分は豪華な生活を送るべきだ」と考えたのならいいのですが、豪華な生活を送りたいがために考え出した後付けの理由に過ぎないのなら彼の成功は長く続かないでしょう。私はそうでないと信じますが。
そして彼は尊敬されようとは思っていません。彼が周囲に期待しているのは「金持ちに対して具体的で強い憧れを持ち、金持ちになるべく皆が努力するような社会構造」だと言っています。彼のシンプルな考えの中には「現状の社会構造はなんだかおかしい」という危機感も含まれているので、彼の素朴な考えとして「金儲けをすることに対してフェアな社会構造」を実現させたいと思っているのです。自分が尊敬されるかどうかなど彼にとっては「たいした問題じゃない」のです。
<彼の考えをどう受け止めるべきか>
「一番怖いのは、金で買えないものはないなんて発言を、『本音』として歓迎してしまう風潮にある」という藤巻幸夫氏の指摘はその通りだと思います。彼の哲学は非常にシンプルではっきりしていて、そうである故に安易な考えで鵜呑みにしてはいけないのです。彼の発言は「金儲けを知っている皆が少なからず脳の片隅に置いている本音」ではあるけども、本当にそれが正しいと思ってその通りに行動する、というのはあまりにも危険すぎます。彼の行動は彼の発言の内容のみで説明されるものではなく、彼の言う通りにしていると大やけどをするでしょう。彼に限らず「すべてお金で解決できる」と思っている人でもまともな人なら「そう一概に言い切ることもできない」ということをうすうす分かっていると思います。それでもなお「世の中は金」だと言える人こそがお金に対して割り切った使い方ができるのです。ただ単に「世の中は金」だと思っているだけならそれは金の亡者でしかありません。彼がそうでないのは、それだけにとどまらない確固とした哲学があるからです。
世の中が彼の発言を受け入れてしまうと、世の中に彼のような人が増えるのではなく、彼のようになろうとして大失敗をしてしまう人が増えてしまうに違いありません。世間はそこまで馬鹿ではないとは思いますが、私は彼の考えに納得した者の一人として、彼の考えは最後まで異端であって欲しいと思います。
(注:堀江氏の言葉はカッコの有無によらずすべて大意です。適当です)
ほ、ほーっ、ホアアーッ!! ホアーッ!!
2004年12月19日