春琴抄 ~明治文学に見るツンデレ

2006年6月20日

今日は1冊の小説を紹介したい。
彼女の名前は春琴。容姿端麗にしてお嬢様。小さい頃から才能に恵まれ、勉強を教えればたちまち2人の兄を追い抜いてしまうほどで、舞踊を教えれば師匠も舌を巻くほどであったという。しかし9歳のときに光を失い、それからは三味線の道を選ぶことになった。
そして彼の名前は佐助。もともとは彼女の家に丁稚奉公していたが、彼女の手を引いて三味線の師匠に連れて行く役を何度か仰せつかる内に気に入られたようで、後々一生を共にすることになる。
と、こんなところから始まる2人のお話なのだが、別に普通のラブストーリーではない。どちらかというと「お嬢様と下僕」のお話である。しかもこのお嬢様、かなりのツンデレ
「べ、別に好きであいつに教えてやってるんじゃないんだからねっ。毎晩熱心に三味線の練習してるもんだから、ちょっと可哀想になって付き合ってあげてるだけなんだから!」(脳内現代語訳。以下同様)
ときは春琴11歳、佐助15歳のことだった。のちに妊娠が発覚するが、彼女は父の名前を言おうとしない。周囲は佐助が相手だと判断して結婚するようにし向けるが、

「誰が父親かどうかなんてどうでもいいでしょ! とにかく何で佐助なんかと結婚しないといけないのよ。あいつは私の下僕なんだから、一緒になるなんて馬鹿らしいにも程があるわ!」
このとき春琴17歳。結局子供は外へ引き取られていった。そして師匠が亡くなり、腕のあった彼女は跡を継いで師範になった。育ちと才能に恵まれたおかげで自信家で気が強かった彼女は独立してからますます暴走を始める。贅沢三昧。潔癖性。そして弟子への折檻。
「いい? あんたたち奉公人は召使で、そして私だけが贅沢をして然るべき存在なのよ。だから私のために、もっと毎日食べる量を減らしなさいっ」
「だいたいあんたたち弟子はね、ペットのウグイスちゃんにも劣ってるのよ。この子の方がよっぽどいい鳴き方してくれるじゃない。弟子の自覚あるの?」
そんな映画「猟奇的な彼女」のような彼女だったが、何年も身の回りの世話をしているために体中の隅から隅まで、あるいはおはようからおやすみまで、はたまた彼女がへそを曲げたときの対応まで知り尽くしている彼は黙って従うのであった。それはあまりにも献身的で可哀想になってくるほどで、あるとき彼は病気をおしてでも彼女の世話をしようとする。しかし…
「馬鹿! 具合が悪いならはっきり言いなさいよねっ。痛みをこらえながら世話されたってこっちの方が迷惑よ。私はちゃんとお見通しなんだから」
まあそんな感じでデレなエピソードもある。
最終的にはある凄惨な事件が起こって事態は急展開を見せ、春琴37歳にして最高のデレシーンが見られるので、興味のある人は読んでみたらいいんじゃないかな。内容はたった70ページ。嗜虐趣味とか献身とかの話なので、愛の形としてはいささか狂っているかもしれない。
アレンジしたらアニメ化もいけるんじゃないかなとかテキトーな事を考えてたらこれ、過去に3度も映像化されてます。
昭和初期の映画化 – 1935年
山口百恵と三浦友和による映画化 – 1976年
日本アニメーションによるアニメ化 – 1986年

参考

Amazon.co.jp:春琴抄新潮文庫: 本 – AA
ツンデレ小説ベスト【まとめ】 – ぶっちぎりで絶賛。日本文学史上最強のツンデレとも評す
純文学で笑え!! – 春琴抄 – 萌え視点。一部現代口語訳あり
美しい予感 春琴抄 – 「キャラ萌え」という言葉を挙げている

4 thoughts on “春琴抄 ~明治文学に見るツンデレ”

  1. 久しぶり、元気かい?
    うちは元気にやっとるよ。
    春琴抄、うちこの小説好きなんだ。
    っていうと、ひん曲がった子に見られるんだ。
    でも確かに
    春琴抄が好きな女の子が彼女だったら、
    どうするよ?

  2. お、好きだという人がこんなところにも。
    私は信頼関係が美しいと感じて虜になったので、そのほかに含まれているものは些細な問題だと思うのです。
    もしこういうの好きな女の子がいたら、たぶん面白く話が出来そうな気がする。

  3. ピンバック: 多聞 きもの手帳

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