8月9日、バグの日

2006年8月9日

時は2006年、地球は謎の生命体の増殖によって危機に瀕していた。
ある日南極で起きた謎の巨大爆発を発端として海面はあっという間に十数メートルも上昇し、世界中が混乱に陥った。至る所で気候が変わり経済活動は衰退。飢餓や戦争で世界人口は激減した。それに加えて南極で見つかったある謎の生命体が日ごとに増殖を続けていたのだった。
その謎の生命体の外見と大きさはアリによく似ていた。しかしアリと違って、彼らは人だろうが牛だろうが木だろうが、そして仲間だろうが食べられるものは何でも食べた。そしてあっという間に卵を産んで増殖し、あちらからこちらへ大挙して移動していくのだった。彼らの通った後には草一本、骨ひとかけらさえ残らず、地面を覆い尽くすその集団は巨大な生命体をも思わせた。南極で発見され「ブラック・バグ」と名付けられた彼らをいく人もの研究チームが危険を冒して調査した。しかし彼らの正体はしばらく謎のままだった。
2000年の時点では既にブラック・バグは南極大陸と南米大陸を覆い尽くしていた。一匹のブラック・バグがある場所に現れただけで、かれは辺りのものを食べながら卵を産んであっという間に無数の集団にまで増殖する。ブラック・バグはそれだけ強力な繁殖力を持っていた。これでは他の大陸や地域に伝染するのも時間の問題だった。それは人間をはじめとした世界中の種がすべてブラック・バグによって絶滅されてしまうことを意味した。ここにきて世界各国は、人類を脅かすこのガン細胞を駆除するために団結せざるを得なかった。脅威が判明してからすぐに駆除のための世界組織が作られ、利益誘導と国家対立を交えながらもブラック・バグの研究と対策が進められた。
観測結果からブラック・バグは南極の極地周辺を中心として異常な増殖をしていることが分かり、そこに増殖源あるいはエネルギー源があると予想された。その増殖の凄まじさから増殖ポイント周辺は厚さ十数メートルに渡ってブラック・バグが蠢いており、構造究明のため気化爆弾からMOABまでのあらゆる破壊兵器が投入された。しかし一度としてその厚い絨毯の下は見ることが出来なかった。
破壊兵器の投入と前後して、増殖ポイントを掘り返したり潜行したりするための探査機と支援のための重機が続々と投入された。しかし合理的と思われた単機能な機械では成果を上げることが出来なかった。現地で探査と支援を行うには長距離輸送とオペレーションが複雑というだけでなく、必要となる機能がほとんど予想不可能だったからだ。2003年、ついに単機能探査機は不適と判断され、翌年には人型探査機の投入が始められた。
そこから調査は前進を始めた。はじめの何回かの探査からブラック・バグが暑さ寒さに強いことや十数メートル積み重なっても圧力で潰れないことの理由が少しずつ解明されてきた。そこからはまるで冷戦時代の宇宙探査のように人型機が次々と生産・投入された。中にはブラック・バグそのものをエネルギー源として自律稼働できるものやパイロットが直接探査機に搭乗するものまで開発された。同時に、潜行しながら帰還できなかったり高圧力から接合面が浸食されて制御不能になるといった事故も多発した。しかし人類滅亡の瀬戸際でリスクを取ることを惜しむ余裕はなかった。
(続くかも)

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