Windows 8 を半月使ってみた

2013年7月16日

VAIO Pro 11を購入したので、Windows8を使い始めてみた。かつて発売前にRTM版を使ってここでボロクソに書いたような気もするけど、当時はVM上での操作だったし、今は多少Windows Storeのアプリ群も充実していると思われるので、多少は変わっているのかもしれない。
……と思ったら何も変わっていなかった。

UIの非統一性について

以前にも書いたけど、本当に「何がしたいのか分からないOS」という欠陥品。

「なぜこのようなUIにしたのか?」「なぜここをクリックすればこうなるのか」「なぜこことここで動作が整合していないのか」という点が多すぎて、普通のことを普通にやろうとするたびにストレスが蓄積していく。まるでWindowsを初めて触ったおばあちゃんが感じるような戸惑いが、全員に強制される。さあこれだけのルールを覚えるんだ。慣れるんだ、とMicrosoftは言う。じゃあルールを覚えるよ。これまでのWindowsだって覚えるべきことは山ほどあった。
でもこの分かりにくさは何だ。この混沌としたルールは何だ。体系化されたルールが無い。統一思想がなく、いつまでたっても設計が理解できない。タスクトレイに並んだアイコンは全部同じように見えるのに、ネットワーク接続のアイコンを押したときは横からチャームのようなものがせり出してくる。びっくり箱かよ。
それでいて別のアイコン、たとえば隣にあるボリューム調節アイコンを押すと、ちゃんとおなじみの小さな調節ダイアログが出てくる。これはどういうことだ。こいつはチャームから呼び出せばそれはそれでチャーム用の調節画面も用意されている。だからネットワーク接続アイコンと扱いが同じになってもいいはずだ。なのにネットワーク接続はチャームが表示され、ボリューム調節は従来通りの表示になる。ルールが分からず挙動の予想ができない。イライラがつのる。
一方で、ルールさえ踏襲していればちゃんと慣れることができる。
たとえば「スタートメニューが無くなった」という変更は「Modern UIのホーム画面に置き換えられた」と理解すれば、イライラは5割くらい減る。Windows7では、Windowsキーを押してキーワードを打ち込めばアプリが検索できた。同じようにWindows8で、Windowsキーを押してそのまま文字を入力(カーソルキーがどこにあるかも分からないのに)すれば、アプリを検索できる。分かりやすさにはいささかの問題はあるが、一連の操作はWindows7を踏襲している。もう一度Windowsキーを押したり、Escキーを押すと元に戻る(スタートメニューが消える)のもWindows7と同じだ。
なぜこれを全体で統一しなかった?
なぜ「Modern UIのホーム画面はスタートメニューの置き換えだ」と分かりやすく説明しなかった?

アフォーダンスの欠けた不毛なナビゲーション

Windowsストアアプリには検索窓がない。あるにはあるのだが、それに気が付かない。検索窓が見えていない状態でいったい誰が検索クエリーを打ち込もうなどと思うだろうか(もう慣れたけど)。
あるいは、アプリ内のメニューを呼び出すために右クリックが必要などと思うだろうか。Windows7にしろ、Mac OS Xにしろ、AndroidにしろiOSにしろ、どこかにボタンがあるはずだ。どこかにメニューがあるはずだ。どこかに入力フォームがあるはずだ。アプリによってそれは右上にあったり左下にあるかもしれないが、どこかにヒントがある。それが一切無い状態で、いったい我々にどうしろというのか。そもそも自分たちが何ができるか分からないのに、どんな操作が許されているか分からないのに、何をせよというのか。

Modern UIに期待したこと、裏切られたこと

Modern UIは使いにくい。アプリが常に全画面表示になるからだ。でも問題はそこじゃない。注意深くUIに気を遣えば素晴らしい操作感が実現できるはずだった。初めてそのコンセプトを見たときは心が躍った。見栄えの目新しさにじゃなく、「常に全画面表示」の有用性に気付き、活かそうとしていたからだ。
でも現実に出来上ったものは別物だった。
私が待っていたのは、簡単に言うとMac OS Xのフルスクリーンモードのようなものだった。あるアプリをフルスクリーンモードにすれば、そのアプリが全画面表示させた仮想画面が新たに作られる。たとえばいま私のMacbook Airには4つの仮想画面が開かれている。2番目の画面には全画面化したChrome、3番目の画面には全画面化したEvernote、4番目の画面には全画面化したJanetterが表示されている。これらの仮想画面は4本指スワイプで行き来できる。それらのアプリを一度に見ることはできないが、一瞬で移動できるので自分の首を左右に動かして見回すような感覚とよく似ている。
フルスクリーンモードはノートPCの限られた画面で作業をする場合に有効だ。まるでマルチモニタ環境で作業しているような便利さを持っている。逆に言えば、大きな画面があるなら従来通りウィンドウを自由に配置した方がよかったりする。下手に全画面にすると画面の端っこが視界から外れて見づらかったりするからだ。タブレットやノートPC程度の画面なら、全画面にしても視界の中にきちんと収まるため、無駄がない。
さて、Modern UIアプリは残念な方向に進化した。致命的だった点は2つ。従来のデスクトップアプリと異なる枠組みで実現したことと、画面の解像度への考慮をしなかったことだ。
まずデスクトップアプリの枠組みから外れたことで、アプリ開発者は同じアプリをもう一つ違うプラットフォームでメンテナンスしなくてはならなくなった。Microsoftはデスクトップアプリを根絶させるつもりなのか共存させるつもりなのか分からないが、両対応にしようとするとメンテコストは上がる。その結果、Modern UIアプリのリリースを諦めるか、出しても限られた機能のみにとどまることになった。
さらにユーザにとっても、アプリの切替がフラットであるという前提が崩れてしまった。Alt+TabだとModern UIアプリだろうとデスクトップアプリだろうと関係なく切り替えできるが、エッジスワイプ対応デバイスで左エッジスワイプすると、Modern UIアプリ間でしか切り替えがきかない。デスクトップアプリはすべて「デスクトップ」一つとして集約されてしまう。設計が混乱している。
そして画面解像度の軽視。タブレットでもデスクトップPCでも統一されたOSにするという割には、この点への配慮がなかった。フルHDのマルチモニタ環境だろうが両手に収まるタブレット画面だろうが、アプリの見栄えが同じになるということだ。当然情報量も一緒。いや、スクロール表示部分は画面に連動して大小するだろうが、UIの基本構造は一緒だ。つまり画面の大きさに応じた柔軟な表示ができない(できるのかもしれないけど、そんなことしてるの見たことがない)。たとえばタブレットは2ペイン表示が最適だけどフルHDだとデッドスペースが大きくなるから3ペインにした方がいいよね、みたいな考えも無視される。タブレットもデスクトップも統一したOSにするというのなら、その隔たりをどうするか考えないといけないはずだった。考えずに作った結果、タブレットに最適化されたようなアプリばかりで、デスクトップPCで表示するとスカスカでしょんぼり、という今の状態だ。デスクトップユーザから見放されるのも当然だ。
こうしてModern UIは自らの可能性を潰してしまった。対応アプリ開発の輪は広がらず、Windowsアプリストアには数合わせのようなゴミアプリばかりがあふれている。

Modern UIはデスクトップにまで迷惑をかける

Modern UIアプリを使わずにデスクトップのみを使うことはできる。でも、デスクトップアプリばかりを使っていればイライラとはおさらばだ! …というわけにはいかない。設定メニューのあちこちに、中途半端に奴らは潜んでいる。さきに挙げたネットワーク接続についての不思議な挙動は一例だ。
従来通りの表示に戻したいところだが、そんなものはどこにもないらしい。Modern UI風に置き換えられてしまった設定は、元に戻ることはない。このことが不幸を招く。
たとえば私は自宅から会社にVPN接続をするときがある。接続のたびに一時的なIDとパスワードが払い出され、どちらも長いのでコピペで接続画面に入力していた。これがModern UI風に変わったことで不可能になった。VPN接続時には画面右側からチャームのような入力画面が出てくるのだけど、IDのコピペはできても、続いてパスワードのコピペができない。なぜなら、コピー文字列を選択しようとした時点で入力画面のフォーカスが外れ、すぐに入力画面が消えてしまうからだ。慌てて開き直しても入力内容はクリアされている。Windows7まではVPN接続画面はダイアログだったので勝手に消えるようなことはなかった。
こうなると手動でいちいち打ち込むしかない。だいたい接続するときは急いでいる時なので、この用途にWindows8を使うのは諦めた。いろいろな兼ね合いもあって、役目を終えたWindowsXPを踏み台にしてそこからVPNを張るという方法で代用している。情けなくないかWindows8。

Microsoftアカウント

WindowsのユーザアカウントとMicrosoftアカウントをいきなり紐付けてしまうのはちょっと乱暴じゃないかな。紐付けたところで何もいいことないし。こういう問題が起きるし。
Windows 8 初期設定で要注意!ユーザフォルダ名が漢字になってしまった原因
メールアプリやメッセージングアプリを使うつもりがないならローカルアカウントが無難。でも、放っておいてもセットアップ時にはローカルアカウントを使わせてくれないんだよね。ネットワーク接続を切っておかないと。
VAIO Pro 11 を買ったときも「OSのセットアップ時にはネットワークにつなぐな! ローカルアカウントでセットアップしろ!」って大きく書いてあった。メーカーにこういうワークアラウンドを案内させるこの状況、おかしくないかな。

地味な機能削減

スタートメニュー廃止なんて別にどうでもいい話で、慣れの問題でだいたい解決できる。本当に困るのは前述のコピペ不可といった機能劣化で、回避のしようがない。今までできたことがまったくできないので、受け入れるか投げ捨てるしかない。
ほかに地味なものとしては、スクロールバーの大きさが変更できなくて戸惑った。Windows7以前だとスクロールバーに限らず、テーマの色設定やらフォント設定などが細かく変更できたのだけど、Windows8では設定項目自体が消え失せているようだ。これ変えられないって、弱視者とかどうすんだよ。

使えたアプリ、使えないアプリ

Modern UIアプリをいろいろと試した結果、今も使っているのは5つのみ。
Rain Alarm
現在地に雨雲が近づくとWindows8の通知機能を使って知らせてくれる。接近レベルに応じて通知するかしないかを調節できる。私はもっぱら通知のみが目当てで、アプリそのものを立ち上げることは無い。通知が出るとChromeでアメッシュを開いて確認したりしている。昨日もゲリラ豪雨から布団を守ってくれた。
IRC Explorer
IRCクライアント。英語圏のアプリだけど日本語の表示には問題ない。メイリオで綺麗に表示してくれる。設定項目が多い。ただ、日本語変換についての配慮が無いので、日本語変換で確定しようとEnterを押すとそのまま送信されてしまうのが玉に瑕。
gmail calendar
Googleカレンダーを表示・編集できるアプリ。表示が美しいし、タイルに日付が表示されるところが気に入っている。
リモートデスクトップ
Windows標準のおなじみアプリ。ただ接続するだけならこれで十分。
Plex (\400)
動画・音楽のストリーミング再生クライアント。自宅サーバでPlex Serverを運用しているので。
惜しいアプリもある。
Evernote Touch
フォントが汚い。デフォルトフォントをメイリオにすればいいのに、MSゴシックのガタガタフォントのままで表示するから見づらくて仕方がない。そしてフォントは変更できない。Windowsのフォントレンダリングは汚いのでMacType(フォントレンダリングエンジン置き換えソフト)を導入しているのだけど、さすがにModern UIアプリには利いてくれないようだ。
MetroTwit
Twitterクライアント。元々はWindows7環境で愛用中。
Modern UI版はシンプルで単機能なのでタブレット向けなら優秀なんだけど、デスクトップ版はマルチTL表示ができるので、そちらの方がよっぽど使いやすい。
Chrome
デスクトップで普通にインストールしてもModern UIで起動することができる。ただ、検索履歴からの入力補正が利かなかったりして不便だったので、今はデスクトップ版を使っている。
メール
世界中のいかなるメールソフトとも相性が悪いGmailを常用しているので、残念ながら出番なし。アーカイブボタンの付いたGmail向けのメールアプリを探してみたけど、なかなかしっくり来るものがない。
Bingマップ
某社のと違って地図としてちゃんと使える。でもタイルベースなので、ベクターベースのGoogleマップには見劣りする。
Remote Terminal (\280)
ターミナルエミュレータ。多機能ではないけど最低限使える。表示が美しい。英語圏のアプリだけど2バイト文字を化けずに表示してくれる。ただし、1バイト領域に無理やり表示を押し込もうとするためか、文字が半分に切られてしまい見づらい。
まったく話にならないアプリもある。
Google検索
えっ開くブラウザ選べないの? 全部IEで開いちゃうの? このフォントガタガタのIEで? InstapaperやEvernoteに送りたい時とかどうすんの? メニュー開いていちいち既定ブラウザで開き直さないといけないの? Bing検索アプリは初めから既定ブラウザのChromeで開いてくれますよ。Bingなのに。
Reader
標準状態でもスキャンした蔵書が読めるぞ! と意気込んだものの、最低限の表示しかしてくれない。ちょっと! 逆になってるページ開き方向とか調整したいんですけど! 間に合わせのテキトーアプリかよ。
OneNote
Evernoteの代わりになるかなと思ったけど、変なところいじると簡単に見栄えが変わるのが不安になって使う気にならなかった。タッチパッドに手が当たって文字ドラッグしてしまったりとか。わりとDTP寄りでパワフルなので、かっちりしたテキストエディタとして使いたい私の用途には合わなかった。機能を無効化するモードとか無いもんかねえ。
Vingow
ニュース記事やブログ記事をお薦めしてくれるキュレーションアプリ。アプリ上からMicrosoftアカウントを使ってサインアップするとアプリ限定になってWeb版が使えない。じゃあ仕方ないやとWebからFacebookアカウントで作り直したら今度はアプリが認証を蹴って機能しない。お前も間に合わせで作ったテキトーアプリかよ!
Kindle
Amazon.co.jpで買ったものがまったく読めず、使い物にならなかった。

よいところもあるよ

起動が速い。コールドスタートじゃなくてなんちゃって休止状態みたいなものだから当然といえば当然。でも実用上この速さはとても有難い。
タスクマネージャがグラフィカルで分かりやすい。リソース使用の大小で色分け表示してくれたりとか。
Windowsキー+Spaceで簡単にIMEの切り替えができるようになった。いつの間にかMS-IMEに変わってしまった時も慌てずにATOKに戻せるよ。
エクスプローラに「上へ」ボタンが追加。地味に嬉しい。

おわりに

Windows7とMac OS Xを使いつつ、Microsoft迷走してるなあと遠目に眺めていたけれど、いざ自分が使ってみるとこんなにも戸惑いと怒りを感じるものなのかと苦笑いしている。
これは企業ユースでは無理だ。こんなに動作一つ一つがイライラする欠陥品で仕事回せと言われたら「ふざけんな」としか言いようがない。デバイスがノートPCじゃなくてSurface Proだったとしても無理だ。遊びで使う分にはいいんだけど。
眠くなったのでこの辺で。

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